65歳を過ぎても働き続けると、給与と老齢厚生年金の合計額によっては、年金の一部が止まることがあります。これが「在職老齢年金」のしくみです。止まるのは厚生年金の部分だけで、老齢基礎年金は減りません。しかも2026年4月分から、年金が止まりはじめる基準額が51万円から65万円に引き上げられ、止まる人はさらに少なくなります。ここでは、いくら稼ぐと年金が減るのか、計算のしかたと改正の中身を整理します。2026年7月時点の内容です。
在職老齢年金とは
会社に勤めて厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る場合、給与(賞与を含む)と年金の月額の合計が一定額を超えると、超えた分に応じて年金の一部または全部が支給停止になります。この止められた状態の年金を在職老齢年金と呼びます。
ポイントは、止まるのは老齢厚生年金だけという点です。老齢基礎年金(国民年金部分)は、いくら働いても減りません。また、厚生年金に加入しない働き方(自営業や、勤務時間が短くて加入対象外のパートなど)であれば、そもそもこのしくみの対象外です。
いくら稼ぐと止まる? 計算のしくみ
判定に使うのは、次の2つを足した金額です。
② 総報酬月額相当額:その月の標準報酬月額 + 直近1年の賞与(標準賞与額)÷12。ざっくり「毎月の給与に、ボーナスを月割りで足した額」です。
この①と②の合計が65万円以下なら、年金は全額もらえます。65万円を超えると、超えた分の半分が止まります。式にすると次のとおりです。
=(基本月額 + 総報酬月額相当額 − 65万円)÷ 2
計算してみる(例)
老齢厚生年金の基本月額が10万円、給与とボーナスを合わせた総報酬月額相当額が60万円の人で考えます。
この例では、改正前の基準(51万円)だと合計70万円のうち19万円が超過となり、止まる額は月9.5万円でした。基準が65万円に上がったことで、止まる額が月9.5万円→2.5万円に減った計算になります。
2026年4月からの改正
在職老齢年金の支給停止の基準額(支給停止調整額)は、これまで51万円でした。2026年4月分の年金から、これが65万円に引き上げられます。長く働きたい人が年金の減額を気にせず働けるように、という趣旨の見直しです。
なお、基準額は毎年度の賃金・物価の動きで見直されることがあります。実際の判定額は、その年度の最新の数字で確認してください。
65歳より前に働く場合
生年月日によっては、65歳より前に「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れる人がいます。この60〜64歳の年金についても、2022年4月から65歳以降と同じ基準で判定されるようになりました。以前は60代前半だけ基準が低く、働くと止まりやすかったのですが、今は前半・後半で差はありません。2026年4月からはどちらも65万円が基準です。
働いた分は年金にも積み上がる
65歳以降も厚生年金に加入して働くと、その保険料は将来の年金に反映されます。以前は退職するまで年金額に反映されませんでしたが、2022年4月からは在職定時改定が導入され、毎年1回(10月分から)、それまで働いた分が年金額に上乗せされるようになりました。
つまり、働いている間に一部の年金が止まっても、納めた保険料は少しずつ翌年以降の年金額を押し上げていきます。目先の支給停止額だけでなく、この積み上がりも含めて考えると見え方が変わります。
誤解しやすいところ
・止まった年金は、あとでまとめて戻るわけではありません(もらえないまま)。
・基礎年金は対象外。厚生年金部分だけが止まります。
・「働くと手取りが逆転して損」にはならない設計です。給与が増えれば、年金が一部止まっても収入の合計は増えます。
・会社を辞めて厚生年金の加入をやめれば、翌月以降は年金が満額に戻ります。
よくある質問
Q. パートで働く場合も対象ですか?
厚生年金に加入する働き方かどうかで変わります。加入しないパートなら、給与がいくらでも年金は止まりません。
Q. 繰下げ受給をしている間に働くと?
繰下げの待機中は、在職老齢年金で止まる分は増額の対象になりません。働きながら繰下げを考える場合は、この点も含めて見比べるとよいでしょう。
自分の年金額や給与での判定は、ねんきん定期便やねんきんネットの見込み額をもとに試算できます。迷うときは年金事務所の窓口でも試算してもらえます。
※本記事は2026年7月時点の制度にもとづく一般的な解説です。基準額は年度ごとに変わることがあります。実際の判定・手続きは、日本年金機構や年金事務所の最新情報でご確認ください。(執筆:さちこ)

